京都のプロフェッショナルに学ぶ

KCJSの授業内での取材記事です。

人形にも心が〜糸操り人形のワンダーランド「糸あやつり人形劇団みのむし」〜

大通りからちょっと離れ静かに佇む家は一見普通の家に見えますが、その横に、ガレージのように見える建物があります。その扉を開くと、新しい世界に踏み込む事になります。これは、人形の世界。飯室康一先生の「アトリエみのむし」には、何十もの人形が壁を飾っています。昔からずっとお人形さんに魅力を感じていましたが、かなり遠く離れたところからしか見ていませんでした。でも、この素晴らしい世界にお邪魔して、飯室先生に質問を伺う事ができて、ちょっとだけでも人形の不思議な魅力を理解できるようになりました。やっと自分の目で、近いところから人形を見る事が出来、飯室先生のおかげで、人形の心にも覗き込む事が出来ました。そこで見た光景をみなさんにも伝えたいと思います。
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▲いろんな人形が遊ぶ場所「アトリエみのむし」

人形の遊び場
アトリエに入ったらすぐに気づくでしょう。この場所は人形の遊び場です。右には、優雅に座る白い着物を着た美しい女性の人形。彼女の隣に立っているのは、男らしく刀を握っている侍の人形。左を見ると、可愛い鳥達の人形が空に浮かんでいて、その鳥の群れの周りには、童話の世界から飛んできたかのようなお姫様と魔女の人形があります。飯室先生は、このように、すごく個性的な人形を千体も作ってこられました。アトリエには、その内のほんの一部の人形が、ただの飾りのように壁にかかっています。その動いていない人形を見るだけでも、十分人形達の魅力が見えます。小さい目であれキラキラしている大きな瞳であれ、ドレスを着ている女の子であれベストを着ている猿であれ、人形はみんなそれぞれの形で大変愛らしいです。全部飯室先生が作られたので、侍と妖怪みたいな日本的な人形もお姫様と魔女みたいなヨーロッパ的な人形など、それぞれ違うものでも、どこか飯室先生の個性が表れています。人形のみんなが、暖かい家族のように寄り添い遊んでいるような気がする雰囲気のいい場所です。まさに、人形の遊び場です。人形に囲まれて飯室先生のお話を伺うのは素晴らしい経験でした。言葉だけでは分かるはずがないものを、自分の目で見ることができました。
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▲動いていなくても、壁にある人形を見るだけで、それぞれの魅力が分かります

心を持つ人形
飯室先生の手で動く人形を見たら、びっくりするに違いありません。細かい動きから大きな動きまで、全てがあまりにも自然で何を見ても楽しいです。「人形も、自分の意思で動けるのかな」と思うくらいです。小さな子供の踊る様子から酔っぱらったサラリーマンのふざけた真似まで、人形は何でもできます。無論、劇を作り上げるのは、人形だけではありません。背景も音楽も劇の雰囲気の一部となります。でも、人形劇を見て、何に感動するかというと、それは、人形から伝わってく感情だと思います。 
飯室先生の人形は、心を持つとでも言えるくらいに感情を表現出来ます。それがどうやって出来るかは、簡単には言えません。魔法かと思うくらい不思議な事ですが、その答えの一部だけにでもふれてみましょう。人間は、身体全体で感情を表現します。瞳も口も眉も動かして、腕も足も動かす事で自分の気持を表します。でも、人形はそんなに顔が動くはずがありません。多くの人形の顔は一度作ったら、変えられません。でも顔が全然動かなくても、人形も十分感情を表現出来ます。飯室先生によると、人形の首を動かすだけで顔の表情が違って見えるそうです。光に向かって首を上げる事で、無感情で曖昧な表情のある顔でも幸せそうに微笑むように見えます。逆に人形の顔をうつむかせる事で、表情を哀しくします。でももちろん、人形の体の動きでも表現出来ます。人間と同じく手を振ったり走ったりもしますが、人形しか出来ない表現方法もあります。人形は、人間と違って、重力があるにも関わらず自由に動けます。まるで体が羽みたいに軽くなったように、空を飛べます。腕を大きく振る事だけでも、たくさんの気持ちを表現出来ます。腕を上に伸ばして軽く揺さぶったりしたら、人形は幸せそうに見えるでしょう。でも同じように腕を上に伸ばしても、同時に足が震えていたりしたら、人形は何かを恐れていると思うでしょう。このような色々な動きで、飯室先生の人形はどんな感情でも伝えられます。糸を手繰る事で、飯室先生は人形に命の灯を灯します。
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▲人形を操っている飯室先生

中々人形の顔は変えられないと言っても、顔を動かせる人形もあります。飯室先生はいくつかの仕掛けを作って、表情を変えられる人形も作っていらっしゃいます。飯室先生の人形の三割ぐらいは、このように特別な仕掛けがあります。その中には、顔の表情を細かく変えられる人形と、顔全体が変わる人形もあります。例えば、ある人形は、怖い顔でにらんでいる不良少年です。でも糸を手繰ったら、手にしている漫画が目の前まで動いてきて、その途端、急に顔全体が、げらげらと笑う顔に変わります。実は、この人形には顔が二つあって、仕掛けで頭が回って、違う表情になるらしいです。このような仕掛けのある人形は遠くから見ても、一瞬でその人形の感情が見られます。一方、近いところで見ないと見逃してしまうかもしれないほど細かく表情を変える人形もあります。よくあるのは、眉が動く人形です。その小さくて細かい動きだけでも、一瞬であまり感情の無い表情からすごく怒った顔に変わります。このように体だけでなく表情も動かせる人形は確かに大変高い表現力があると言えます。でももちろん、表情が動かせない人形でも、飯室先生の手でなら、同じような表現力で感情を表せます。
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▲マンガで笑う不良少年

その糸を操る人間
私も自分の手で人形を動かす機会がありました。自分が糸を手繰る事で人形の姿が動くのを見るのは大変楽しかったです。でも、人形を操る事が簡単ではないという事を改めて実感しました。私は動きやすい人形を動かしましたが、その人形でも中々思ったように操れませんでした。歩かそうと思ったら急に人形が前に揺れて、全然自然に歩くように見えませんでした。その一番簡単な歩き方だけでも、二年間ずっと練習しないと出来るようにならないと飯室先生はおっしゃいました。糸操り人形とその動き方は楽しくて魅力的ですが、子供の遊びのようにイメージしたら大違いです。飯室先生みたいに素晴らしい表現力のある動きが出来るまでは、何十年も練習しなければなりません。実に、飯室先生は四十年も糸操り人形の仕事を続けていらっしゃいますが、今でも練習をしていらっしゃいます。人形を上手に操るのがそんなに大変なのに、どうして人形劇が今でも行われているのでしょう。それは、飯室先生を含め、糸操り人形を仕事にする方は、人形が好きだけではなくて、他の人も大事にしているからだと思います。人形劇によって、子供も大人も一瞬で悩みを忘れさせ、幸せにする事が出来ます。愛らしい人形の素晴らしい表現力を見ると、誰でもうれしくなると思います。その人形達を作ったり操ったりする飯室先生は、よく笑い声に囲まれている優しい人だと感じました。
これほど人形が好きで大変難しい試練を乗り越えてきた素晴らしい職人さんがこの京都にいらっしゃいます。このような心優しくて人形への気持が溢れる職人さんの手でなら、人形にも命を与えられます。取材をする事で、私はここでしか見られない、世界に一体しかない人形を見たり、飯室先生からしか聴けない話も拝聴しました。元から人形が好きでしたが、今は以前よりもずっとどうして人形がこんなにも魅力的ですごいものなのかという質問の答えが見えたような気がします。これは私の個人的な願いですが、もし機会があれば、飯室先生の人形劇を見に行ってください。この心のある人形達を見たら、きっとびっくりして、楽しくて幸せなひと時を過ごせるでしょう。

■糸あやつり人形劇団みのむし■
602-0807 京都市上京区寺町通り今出川上八6丁目不動前町1−2
飯室康一
Tel&Fax:075-200-8261
URL: http://mino3064.com/
e-mail: mino3064@aol.com

レポーター紹介
pic2-5アンバー・サイツ
ボストン大学の四年生で、日本語と日本文学を勉強しています。京都にいられる短い時間を、心ゆくまで楽しみたいと思って、日々を過ごしています。

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情報

投稿日: 2014年9月1日 投稿者: カテゴリー: 2014Summer

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