京都のプロフェッショナルに学ぶ

KCJSの授業内での取材記事です。

全てはお客さんのために 〜挑戦を楽しむ和菓子屋さん~御菓子司 聚洸

上京区は西陣にある人気の和菓子屋・聚洸さん。ご亭主はある有名な京菓子老舗の次男さんだ。聚洸さんの和菓子は品の良さと優れたデザイン性で近年注目を集めている。ネットには和菓子ファンからの称賛が絶えない。「こんなに細かくて柔らかなあんを食べたことない!」「(羽二重の)生地が口に入るとすぐ溶けてしまった。」「色合いが、実に綺麗です。」今回、老舗からの技を継いで新たな技を生み出した和菓子職人髙家裕典さんにお話を伺った。
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▲大宮通り寺之内上ルにある「御菓子司 聚洸」  ▲ご主人の髙家裕典さん

職人さんの原点
髙家裕典さんのご実家は、京都の大変有名な和菓子老舗・塩芳軒(明治15年開店)である。和菓子に囲まれて育った髙家さんは普通の人より甘いものがお好きに違いないと思っていたが、甘い物に限らずに、食べること自体が好きだそうだ。そして、自らの手で新しいものを生み出すのが何よりも好きだ。ある時期、料理人と陶芸家も理想の職業であったが、和菓子作りが一番身近だったので、高校卒業後、髙家さんは和菓子職人を志望。塩芳軒の元弟子が経営する名古屋の名店・芳光に弟子入りし、5年間修業。「最初の一年間ほとんど師匠と先輩の仕事を手伝っていて、あんまり自分で和菓子を作るチャンスがなかった。二年目から作らせてもらって、それからは和菓子を作ることだけ。」と修業時代のことを懐かしそうに語った髙家さん。その後、実家の塩芳軒で3年間働いた。そして、自分の店を開店するため、芳光に戻って2年間経営を学んだ。こうして10年間の修業を経て、髙家さんは8年前の2006年に独立して聚洸を開いた。

身体で覚える仕事
取材の時、和菓子を作ったことがなかった私たち取材チームのメンバーは髙家さんに和菓子作り体験をさせてもらった。適量の生地と餡を取り、生地で餡を包み、道具で形を取ることで基本的な主菓子ができる。私たちは桜型となでしこ型のういろう製菓子を一個ずつ作らせてもらった。最初の一個を作った時は意識して手の力をコントロールするようにしていたのだが、次の一個の時は集中力がどんどん下がってお菓子の形がかなり崩れてしまった。どうやって手の力をコントロールできるのか全然分からなかった。
そこで、髙家さんに作る過程を見せてもらった。そして、職人さんの技・腕というのは一体どういうものかをまざまざと見せつけられた。見た目が綺麗で美味しいものを作れることだけが技なのではなく、高い水準を保つこと、そしてさらなる高みを目指してやまないことこそ技の真髄なのではないか。髙家さんが生地を取ると、量らなくても、毎回取る生地は同じグラム数だ。包む時、私はゆっくりじゃないと上手く生地で餡を包むことが不可能だった。一方、髙家さんの包み方はいつも早くて規則正しかった。修業時代の髙家さんは、ほとんど毎日丸いものを手のひらの上で回して指の動きを練習していたらしい。私たちにはどうやっても上手くいかない形取りも髙家さんの手にかかれば一瞬だ。あまり気を使っていないように見えたが、髙家さんが団子状の丸い菓子に数回ヘラを入れると、すぐに可愛らしいなでしこが出来上がった。
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上(4枚):髙家さんの実演。左から順に包み、団子状にし、花の形を取り、花びらの形を取る様子
下(2枚):なでしこの形の和菓子。花びらの白からピンクへの色の変化も表現
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髙家さんご自身の言葉によると、「和菓子作りは体で覚える仕事。」このような技は、数年間に及ぶ繰り返しがなければ、絶対に身につかないだろう。

和菓子のデザインの楽しみ方
京菓子は季節に限定され、店で出すものは一年中いつも変わっている。6月末に取材に伺った時は、くずと寒天をメインの材料として用いた透明度の高い和菓子の季節が始まったばかりだった。その時、店で6月30日定番の水無月1とともに、7月から始まる夏の本番を迎えようとしていたのは「緑陰(りょくいん)」と「せせらぎ」という2つの和菓子だった。2つともくずを使い、透明度が高くて、見るだけで涼しさを感じさせる典型的な夏の和菓子である。「緑陰」は緑色に染めた白あんとこしあんを二重あんにし、くずで包んであり、氷の球のようである。一方で、「せせらぎ」は水色の吉野羹と、小豆あんが入った茶色の淡雪羹の組み合わせで、まるで流れる音が聞こえてきそうな冷やかな川のせせらぎを和菓子で表現している。
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▲「緑陰(りょくいん)」     ▲「せせらぎ」
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▲夏のイメージの一つである打ち水をテーマとして作った和菓子「打ち水」

京菓子といえば、材料や種類などに制約があるものなので、味と食感の面での革新には限りがある。そのため、和菓子職人さんたちは和菓子のデザインによって競い合っているらしい。デザイン性は京菓子の一つの特性と髙家さんは考える2。髙家さんにとってデザインとは、あるテーマに基づいて考えた形、名付け、味と食感を含む全てのことだ。つまり、まずテーマを確立し、それを和菓子にイメージしていく。例えば、京都の夏は湿気が多くて気温が高い。髙家さんは人々が少しでも暑さを忘れられるように、夏の間ずっと涼しさを感じさせるような和菓子を作る。清涼感というテーマで「涼しい」状況を想像すると、水や清風などをはじめ、色々な景色やシーンが出てきた。その中で、髙家さんが特に気になったものの一つは打ち水だ。古い町では、夏になると毎朝店の前を掃除した後水を撒く。打ち水の後、路面に水が残り、気温を少し下げてくれるので、人は涼しく感じる。髙家さんは、その清涼感をお客さんに伝えるため、白あんの入っている白い淡雪羹の上に打ち水を表現する透明的な吉野羹を乗せた。くずの透明度と光沢は路面に残った水とまったく一緒だ。吉野羹の中に入っている三粒の小豆は、3つの踏石の象徴である。そうやって和菓子「打ち水」は、打ち水で、潤った石畳の涼しいシーンを再現した。聚洸pic6
「蝶々をつけたりとか花びらをつけたりとかじゃなくて、色や名前で表現をする。色や名前を通じて景色がイメージできる。そのイメージを食べてくれる人に伝えたい。」と高家さん。夏の和菓子だからと言って、最初から夏の植物や果物など形のあるモノを表現しない。概念や言葉から発想したイメージや色合いを組み合わせ、目に見えないモノや感じを具象化してデザインする。「見た目、味、匂いなど五感の良さだけではなく、第六感のインスピレーションも感じられる和菓子を作るのが仕事の楽しみです。」

お客さまを満足させるのは当たり前
和菓子職人としての人生を歩み始めてからもうすぐ19年。実家の塩芳軒さんと名古屋の芳光さんから学んだ高水準の和菓子作りの技を毎日の仕事で自分のものにされた髙家さんは、職人として、どうすればお客さんの要望に応え、お客さんをもっと満足させられるのかいつも考えている。
例えば、よく頼まれる茶会の亭主からのテーマ付きの依頼。どんな大きさの茶会でも、まず必ずするのは亭主と会って充分にお話しし、相手の要望をきちんと把握することである。お客さんと相談しながら、頭の中で発想が始まる。テーマや注文された種類(上用、きんとんなど)に合うのは一体どんなイメージなのか。そう考えながら、「日本大歳時記」などの参考になる物を読んではスケッチしてインスピレーションを探す。スケッチでいいアイデアができたら、すぐ作ってみる。試作が成功すると見本に入るのだが、失敗したらやり直す。また違う考えができたら、同じく発想と試行をもう一度、というように全ての見本ができるまでずっと繰り返す。お客さんに見本を提示する時、髙家さんはいつもいくつかの見本を用意する。選ばれるのは、茶会のテーマに一番合うひとつだけだ。
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左・中:よく髙家さんが参考にする「日本大歳時記」。春夏秋冬と正月の全5巻。季語の意味と由来だけではなく、写真や和歌なども入っている。この全てが髙家さんのデザインを支えている
右:試作する前、イメージをスケッチする。髙家さんのスケッチブック

茶会の亭主に自慢してもらえる1個のお菓子のために、髙家さんはいつも多大な精力と時間をかける。見本の試作は「いつも勉強でした」と高家さん。お客さんが満足している笑顔を見ると、とても嬉しく思う。このようにいつもお客さんのことを考えている髙家さんの作品はすごく人気になって、雑誌から特別な和菓子作りの依頼も何度も受けたそうだ。例えば、イギリスのルーシー・リーという芸術家の器を見せられて、器に合う和菓子を作ってくださいと依頼されたこともある。また、ケーキの材料にアレルギーのある子供向けにケーキのような和菓子を頼まれたこともある。「毎回新しいテーマで挑戦を楽しめる。」「お客様を満足させるのは当たり前だ。」と髙家さんは熱く語った。
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左端: ルーシー・リーの器に合う和菓子を模索する。髙家さんのスケッチ
右3枚: 髙家さんがルーシー・リーの器に合わせ、作った和菓子(出典:雑誌「ミセス」No. 697. Jan. 2013. 新年特大号pp.250-251.文化出版社)

取材後記
髙家さんはとても明るくて話しやすい方だ。取材の間もずっと優しく微笑んでいた。職人としてまだ若い髙家さんは、様々な挑戦と出会い、色々な難題を乗り越えつつ和菓子作りの道に励んでいる。髙家さんは、試行錯誤の繰り返しだが、平常心があればどんな過程でも楽しめると言う。失敗を怖れず、平常心と前向きな姿勢を持つからこそ、十年間の修業を通し、技を身につけ、上品な味と豊かな食感のある和菓子が作れるのではないか。自分も髙家さんのように平常心を持ち、一生懸命に仕事をする人になりたい。

注釈
1.6月30日の「夏越の祓」には、一年の前半の穢れをはらう「茅の輪くぐり」や人形を流して身を清める行事が神社で行われるが、この日、水無月という氷に見立てた三角のういろうにあずきを散りばめた厄除けの菓子が売られる。
2.「佛大通信」Vol.518(平成20年11月号)より「職人さんに会いたくて~髙家裕典×所めぐみ~対談:美味しさの秘密は職人の心意気」

http://www.bunet.jp/world/html/20_11/518_kyotogaku/index.html

付録:髙家さんの他の作品
「波の華」
pic9波の華という言葉を聴いた瞬間、頭の中にどんなイメージが浮かぶだろう。筆者は青い波を想像した。しかし、店に並ぶ「波の華」という和菓子からは違った印象を受ける。「波の華」は黒砂糖入りのくずの生地で餡を包んであり、その上に、お米でできた氷餅の白い粉末がかけてある。夜の黒い波と白く見える汐を表現している。普通の涼しげな波のイメージとは違い、「波の華」は漆黒の静けさがある。髙家さんがお客さんに伝えたい特別な夏のイメージだ。

「無常」
pic10この和菓子は、「家庭画報」の企画で、三十六歌仙の歌をテーマに作ったものだ。和菓子「無常」が表すのは小野小町の「あるはなく なきは数そふ 世の中に 哀れいづれの 日まで嘆かむ (生きている人は亡くなり、亡くなった人の数が増えてゆくばかりの現世に、ああいつまで私は生きていようとするのか)」という和歌である。合掌の形をした道明寺製和菓子だ。手を合わせる動作で嘆きを表現する。合掌は、「南無阿弥陀仏」という亡くなった人への手向けを意味するのと同時に、生きている人への願いも込められているのだろう。(出典:「家庭画報」第52巻 2009年5月号p.109. 世界文化社)

■御菓子司 聚洸(じゅこう)
〒602-0091上京区大宮寺之内上ル
☎075-431-2800(三日前までに要予約)
営業時間:10:00~17:00 (定休:水曜、日曜、祝日)
アクセス:市バス「天神公演前」より徒歩約5分

レポーター紹介
姚詩遠(やお しおん)
大学卒業と大学院進学の間の夏休みに、大好きな町の京都に留学することを選びました。現在、同志社大学校内にある京都アメリカ大学コンソーシアム(KCJS)に在学中。大学で都市計画を専攻し、今秋からペンシルベニア大に進学し都市デザインを専門に勉強します。地域再生やまちづくりにも関心がありますが、個々の人々のあり方にも深い興味を持っています。日本の伝統と職人さんたちのことを尊敬しています。和菓子が大好きなので、今回聚洸さんを取材させていただきました。
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取材チームの藤原優佳さん(左上)、林将城(右上)さん、芳武明日香さん(左下)と筆者(右下)
謝辞:同志社大学政策学部岡田彩先生、三宅敬子さん、KCJS中村伊都子先生(中村先生と筆者を除き、全員同志社大学に所属)

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情報

投稿日: 2014年9月1日 投稿者: カテゴリー: 2014Summer

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