京都のプロフェッショナルに学ぶ

KCJSの授業内での取材記事です。

継承するための革新:和鏡が生き継けられるように 鏡師山本晃久

 

京都の鏡師山本晃久さんと初めて会った日は、晴れで、午後の太陽が西から照っていた。山本さんは、右手に一枚の青銅和鏡、左手に大きいホワイトボードを持ち、 太陽に向かって立って青銅鏡を太陽に向けた。その瞬間、鏡面にさした光がホワイトボードに反射し、金色の十字架像が現れた。近くで見ると、丸い像の中に、十字架に張りつけられたキリストの姿が鮮明に映り、キリストの足元の両側には聖母マリアと一人の信者もはっきり投射されていた。まるで天国から異彩が放っているかのように、その繊細なイメージは、目が開けられないほどキラキラと輝いていた。この反射された十字架像は歴史の証人である。この美しい像を見て、キリスト教徒の私は、少しだけでも江戸時代に迫害されていた教徒の気持ちを感じた。「これが魔鏡現象ですね。」と山本さんが言った。
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▲左:魔鏡現象 右上:凹凸の十字架像 右下:壁に反射したイメージ

唯一の魔鏡技術保持
この素晴らしい魔鏡を作っている山本さんは、 五代目として家業を受け継いでいる。明治の中頃から、ガラスの普及に伴い青銅鏡の需要が減ったのにもかかわらず、山本さんのご家族は青銅和鏡の技術を守るために、青銅鏡の真土型鋳造法を受け継いで、日本で唯一の魔鏡技術保持者となった。詳しい理由は山本さんも分からないが、この特別な魔鏡の技術の継承が一旦途絶えたものの、山本さんの祖父にあたる山本鳳龍氏が取り戻し、こうして山本さんに魔鏡の伝統技術を受け継ぐことができた。

では、青銅和鏡の作り方を少し見てみよう。まずは鋳造だ。珪砂と粘土、山砂を配合して形成した鋳型を焼いて乾燥させて、青銅や白銅などの合金を鋳型に流し込み、その後、仕上げの工程に移る。鑢という長い鉄棒で鏡面のムラを削って、そして鑢でついた線を消すためにより柔らかい刀のような纖(せん)という道具を用いもう一度削る。次に、研ぎの工程がある。鏡面のムラが消え、完璧に平たい鏡面になるまで砥石で長時間磨いていく。最後に、鏡全体に鍍金を当てて完成する。鏡面をきれいにして、純粋な金属の質感が出ると一番嬉しいと山本さんは言った。実際、青銅鏡を触らせてもらうと、滑らかさと重さを感じ、普通のガラス製の鏡よりもずっと歴史的な重みを感じた。

全ての工程で職人技を要するが、ここでは仕上げの過程での難しさに言及したい。特に魔鏡を作るとき、経験に裏打ちされた職人さんのカンなしには、仕上げはなし得ない。魔鏡は、普通の和鏡と違い、裏面に凹凸の図案が彫ってあり、それが隠されている。鏡面に光があたると、その隠されたイメージが反射して映る。鏡面が厚いと裏面に彫ってあるイメージが鮮明に反射されない。つまり、鏡面が薄ければ薄いほど、鮮明な反射像が映るわけだ。魔鏡の薄さは1ミリメートルの世界だといわれている。0.5ミリメートルの差でも大きな違いが生じる。だが、よりよい結果を求めるあまり鏡面を削り過ぎると穴が開く。山本さんも今まで、何度もこんな失敗をしたことがあった。だから、どこまで挑戦するかは、カンで見極めなければならない。それが、青銅鏡職人さんとしての一番の腕のみせどころだろう。
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▲和鏡を纖で削る

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▲和鏡の裏面の繊細なイメージ

この伝統技術は、山本さんご家族のうちにしかない。山本さんご家族は、今は和鏡の作り方を他人に教えていない。山本さんの祖父の代には、他人に技術を教えていたが、技術だけが継承され、和鏡職人としての「想い」が伝わらなかったからだ。和鏡にせよ、魔鏡にせよ、一人前になるまでに30年くらいかかる。伝統技術を習得するための長い道のりへの心構えや姿勢は、なかなか他人に教えても理解できない、と山本さんご家族は思っている。では、今の時代、和鏡の技術を自分達の手で継承していくためには、どうすればいいだろうか。

革新:新しい方法、古い工芸を守る
山本さんは、和鏡という閉ざされた世界を新しい手法で開こうとしている。つまり、伝統技術を守りつつ、現代の様々な手法で人々に周知しようとしている。今年に入り、山本さんは「未来の途中」というプロジェクトに参加した。「未来の途中」は、文化庁の助成による「大学美術館を活用した美術工芸分野新人アーティスト育成プロジェクト」の一環として開催されるシリーズの展示会活動だ。今年1月14日から2月28日まで京都工芸繊維大学美術工芸資料館で行われた一回目の展覧会には、選抜された十二人の美術、工芸、デサインの若手クリエイターが参加。山本さんは、工芸作家四人の内の一人として出展した。2_4展示会中、白い台の上に置かれた青銅鏡は、銀色の鏡面がなめらかで、 裏面に彫ってある繊細な絵柄も光り輝いていた。 そのプロジェクトを通じて、他のアーティストと交流する事で、山本さんは自分の出来る事や自分の伝えたい事が再認識できた。工芸職人は、注文に応え、自分の持つ技術で商品を制作し、お客さんに喜んでもらうという立場にいるが、アーティストあるいは作家は、自分の表現したいコトや伝えたいコトを作品に込めるという違いがある。山本さんは、「未来の途中」への参加を通して、アーティストとの協業によって、新しい形の仕事が生まれることを希望し、自分もアーティストとして表現したいことを職人の技術で形にしたいと思うようになった。伝統的な工芸に独特なアイデアを受け入れて、もっと面白い作品が出来れば、社会との繋がりが強くなるだろう、と山本さんは思っている。次の展示会は今年の十二月に行わる。まだテーマが決まっていないが、山本さんは、前回よりメッセージ性のある作品に挑戦したいと考えている。皆さんも一緒に山本さんの新しい作品作りに期待しよう。
2_5 2_6 山本さんは展示会以外にも、 伝統産業のビジネスチャンスに積極的に参加している。今年の六月、『婦人画報』がプロデュースする伝統産業支援プロジェクト「つくろう!日本の手仕事の未来」が発足した。それは、クラウドファンディングで寄付を呼びかけ、作品を作って公衆に宣伝することで手仕事を支持するという活動だ。六月から八月までに、百五十万円を集まったら、プロジェクトは正式に始動する。山本さんが手がける予定の神鏡は、東日本大震災に被害を受けた岩手県陸前高田の今泉天満宮に納める。一方、魔除けのお守りとして作られた小さな鏡などを寄付してくれたサポーターにお礼として送ることになっている。山本さんにとって、このプロジェクトは伝統技術を残すための一つの重要な活動である。実現したら、青銅鏡を公衆に広く知ってもらい、 共感してもらうことで技術を守るいいチャンスになる 。クラウドファンディングという 現代的な寄付システムによって、伝統産業と現代社会を繋ぐというのは、画期的な取り組みではないか。
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山本さんはプロジェクトに参加するだけではなくて、 自分でも特別な方法でマーケティングをしている。一例として、百貨店に行って、和鏡の作り方を実演することがある。そして、公衆やお客さんからの反応、興味、質問からニーズを知り、それを分析し、自分の作品をニーズにあうものに改善する。例えば、鏡は大きくて重いとかデザインがつまらないと言われたら、山本さんは サイズを小さくしたり、もっと削って軽くしたり、鋳型でかわいい図案を彫ったりする。 今検討している図案は、ハートやクローバー等の新しいデザインだ。最後に、できたものをイベントを通じて公衆に見てもらう。こういう風に、 山本さんは古い形を今の社会に合うようにするために努力している。又、和鏡のことを知ってもらえるように、現代的なテクノロジーを使っている。iPadを使って自分の仕事を撮影している山本さんは、魔鏡の魅力的な作り方を公衆とすぐ共有できるようfacebookなどのSNSを用いている。また、「みやび」という京の逸品を販売するオンラインサイトで和鏡の作品を宣伝して売っている。山本さんによると、最近は、メールなどで直接連絡してきて、和鏡を買うお客さんが最近だんだん増えてきているとのこと。このように、現代のコミュニケーション・ツールを駆使することで伝統的な作品の新しい市場が開拓できるだろう。
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▲仏像のイメージの魔鏡を製作中

伝統と現代 、未来への道
将来についても、山本さんはいろいろ考えている。伝統産業が生き続けられる環境はまだまだ成熟しておらず、次世代の伝統技術職人が生計を立てることができるように、よい環境を作らなければならない。具体的に言うと、職人が発信作業等をやらなくても仕事が入ってきて、職人が仕事に専念し、腕を磨く事に集中できる環境が必要である。それには、まず人々に公伝統工芸をよく知ってもらわなければならない。今から十年や十五年間は、現代社会における伝統産業の工芸品の確固たる存在の確立を目標とする。具体的には、和鏡の伝統技法と現代のアイデアを融合し、社会のニーズに合った作品を作りつつ、もう一方で、現代的なビジネス・ストラテジーを用い、宣伝する。これが、山本さんの継承するための革新だ。

私は、伝統工芸の職人である山本さんから「クラウドファンディング」のような商業的な言葉を聞いて驚いた。そして、伝統をこんなふうに守っていきたいという考えを聞いて感動した。伝統と現代を共存させようという山本さんの決心は強く、今真剣にその目標に向かって仕事をしている。そんな熱意と努力に本当に感銘を受けた。山本さんのような職人さんがたくさんいたら、現代社会でも伝統文化をちゃんと守っていけるだろう。この使命は難しいけれども、伝統が生き続けられるように、革新のさらなる一歩を踏み出してみよう。
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▲工房で 取材班:左から遠藤綾乃さん、筆者、山本晃久さん、大友千佳さん

◆株式会社山本合金製作所◆
鏡師 山本晃久さん
Tel: 075-351-1930
Fax: 075-351-2338
E-mail: makyoyamamoto@gmail.com

「未来の途中」
http://www.kit.ac.jp/01/topics/2013/museum140114-2.html
http://www.museum.kit.ac.jp/nap2013.html

「婦人画報・つくろう!日本の手仕事の未来」
http://sp.trip.kyoto.jp/savethecraft/01/index.html

レポーター紹介
2_10シリン・リー
中国出身。アメリカのエール大学の二年生のシリン・リーです。専攻はまだ決めていないけど、音楽と国際関係について興味があります。 京都で得られる経験を大事にしています。

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情報

投稿日: 2014年9月9日 投稿者: カテゴリー: 2014Summer

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