鏡の秘め事 魔鏡を作れる最後の鏡師

一枚の「魔鏡」と呼ばれる青銅鏡は、一見、地味なオレンジ色の丸に過ぎない。鏡面をじっと見つめると、自分の目だけが映る。それは、当たり前のことだ。鏡は、いつも真実を映し出すという考えがある。青銅鏡はどうやって人命にかかわる秘密を隠し得るのだろうか。人は、何も隠せないと言うだろう。だが、京都に住んでいる五代目の鏡師、山本晃久さんは、魔鏡は単に鏡ではなく、昔の秘密をよく隠せる物だと言う。

山本晃久さんは、手で青銅鏡を作ります
山本晃久さんは、手で青銅鏡を作ります

隠れキリシタンを助ける鏡、「魔鏡」という物

江戸時代に、キリスト教を信じるのは、禁止されていた。キリスト教の信者の大名は、改心させられ、外国の船は、自由な寄港を禁じられ、宣教師は、追放された。このように、キリスト教を信じるのは、危険だったので、信者は、隠れて信仰しなければならなかった。そのために、魔鏡が使われていたのだ。
魔鏡の鏡面の上に、裸眼で見えないほど小さい凹凸がたくさんある。作る時、鏡師は、鏡の後ろの面にキリストや十字架像などキリスト教の絵柄を彫る。鏡面の凹凸は、その絵柄に影を映す。その後、鏡師は、鶴亀や松竹梅などの文様をキリスト教の絵柄の上に置いて、キリスト教の象徴を隠す。そうすると、まったく普通の鏡と変わらなくなる。これが、魔鏡の秘密だ。
もう一度真実が現れるには、特別な過程を要する。まず、光を鏡面に当てる。照り返した光が、壁や紙を照らすと、キリスト教のイメージが現れるのだ。このように、魔鏡という物は、キリスト教の信者に自分の宗教の隠れた象徴として持たれていた。

時代が変わり、少なくなる魔鏡職人

江戸時代が終わると、キリスト教を信じるのは、許された。魔鏡が、必要ではなくなるとともに、魔鏡が作れる職人も少なくなり、また、日本が工業化して、鏡を工場で作るのは、もっと安くなった。それで、手作業で青銅鏡を作る伝統的な鏡師の数自体が減ってしまった。今では全国で山本さんの家しか残っていない。

魔鏡の用途も変わった。今、魔鏡を買う人は、たいてい、キリスト教の信者じゃなく、一般の人だ。魔鏡は、信仰の対象物ではなく、ペンダントのようなアクセサリーになった。絵柄は、キリストや十字架じゃなく、8種の守り本尊が人気がある。

この魔鏡への関心が少なくなる傾向が続いたら、魔鏡は、なくなってしまうかもしれない。実際、今、魔鏡を作れるのは、山本さんのお父さんと山本さんだけだ。山本さんのおかげで、伝統的な技術が受け継がれているとは言え、この作り方は、少しずつ魔鏡の「二つ目の秘密」になりつつある。しかし、山本さんは、それを防ぐため、ある計画がある。

山本さんの工房
山本さんの工房

伝統的な魔鏡の作り方を継承する山本さん

山本さんの工房は、魔鏡と同じだ。一見、魔鏡は、地味に見える。建物にしても、あまり目立たない。外には、自転車がとまっていて、引き戸は閉まっている。工房内は、乱雑だ。重要な歴史上の秘密を守り抜く場所で、アニメのキャラクターの目覚まし時計やスヌーピーのマグネットを見るのは、たぶん予想に反するだろう。しかし、山本さんは、五代目だから、どこでも山本さんの職業の証がある。鑢や包丁が、テーブルの上の山本さんが作った文鎮の隣にある。何枚もの銅鏡が棚に入れてあって、お父さんとおじいさんがもらった賞状が壁にかかっている。

山本さんの工房では、昔と現代がうまく調和されている。伝統と現代の衝突についてお聞きすると、山本さんは、「もちろん、伝統的なんを守っていかないとだめなんですけど、やっぱり伝統的なものが今の人が求めるものかつていうとちょっと違うところもあったりする。」と言った。伝統を守るためには、革新が必要だ。伝統の継承とテクノロジーの発展は相反するものではない。というより、「現代」という視点をもたなければ、伝統は受け継いでいけない。そのために、山本さんは、伝統的な製法を使い続けつつ、現代のマーケティングの手法も使う。

伝統的な鏡を作る過程をアップルコンピュータのiPadで見せてくれるのには、ちょっと驚かせられたが、ホームページや、プロモーション・ビデオを通して、山本さんは、魔境の市場シェアを広げようとしている。海外にペンダントの鏡を売ろうという計画さえある。今から何が起こるのだろうか。それが、魔鏡の「もう一つの秘密」だ。

魔鏡を作るための道具
魔鏡を作るための道具

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◆㈱山本合金製作所◆
鏡師 山本晃久さん
tel: 075-351-1930
fax: 075-351-2338
mail: makyoyamamoto@gmail.com
13<レポーター紹介>

ウェズリアン大学の三年生のキャサリン・エイカーです。専攻は、コンピュター工学と日本語です。子供の時から、日本に来たかったから、今、日本に留学しているのは、夢みたいです。京都で、日本の文化を楽しんでいます。

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